第1話 目覚めし封霊の力

淫霊。

それは、死しても、なお欲に縛られた霊的存在。

現世に執着を残したそれらは、欲望を喰らい、人の精神を蝕み続けている。

彼らに対抗するのは――封霊師。

そして今夜、封霊師となった少女が、初めての任務に臨む。

 

「ここが……任務地か」

薄暗い雑居ビルの屋上。

街灯の光も届かない高所に、少女の息が白く浮かぶ。

神崎ひより。

姉・神崎みつきの失踪を追い、封霊会に身を投じた特異体質の持ち主。

その身体は、快楽や羞恥を“力”へと変換する稀有な体質である。

一見すれば、ギャル風の奔放な少女。

17歳とは思えぬ豊かな胸がシャツを押し上げ、湿りを帯びた布地でうっすらと下着が透けて見える。

すらりと伸びた脚がおしげもなく短めの丈のスカートから伸び、ほどよく日焼けした艶肌が、ほんのりと色気を感じさせる。

 

ひよりは胸元のネックレスに指をかける。

そのとき、空気が肌に絡みつき、背筋がひくりと跳ねた。

「あらあら…初々しい子が来たわねぇ…」

その声とともに、目の前の空間がゆらめいた。

半透明の影。しっとりと濡れたような声。

淫霊――。どこか人間の名残を残している。

「んふふっ…どこから触ってあげようかしら♡」

(来た…!)

ひよりは拳を握り、一気に間合いを詰める。

「封ッ!」

力を込めた拳が、淫霊の胸元を貫いた。

霊の身体が砕け、光とともに四散する。

「……やった……!」

初めての任務にして、封霊に成功。

抑えきれない達成感に、わずかに息が緩む。

その瞬間――

「ふふっ……油断しちゃだめよ」

地面からぬるりと伸びる影。

足元を這う触手が、ひよりの足首に絡みつく。

「っ!? なにっ…これ――あっ、やっ!」

触手が這い上がる。

膝裏を通り、うち側の太ももをなぞり、短めのスカートを押し上げた。

「ほらほら…どう? もっと感じて…♡」

(ちがっ…やめ――っ)

ぬるりとした感触が、スカートの中で蠢く。

また、別の影がシャツのボタンの隙間からするりと滑り込む。

「んっ……っあ……ッ!」

声が漏れた。

身体が熱を帯び、汗が肌を這う。

羞恥と悔しさ、そして――身体の奥に、“熱”が満ちていく。

(これ……この感覚は、何なの…?)

足を引き寄せられたまま、拳に集中する。

全身が火照り、心臓の鼓動と一緒に、拳に“なにか”が集まっていく。

「もう逃げられないわよぉ♡ 気持ちよくしてあげるから、ほら……このまま堕ちちゃいなさい♡」

淫霊の顔が近づく。

「……うるさいッ!」

その瞬間、拳がわずかに光る。

感度と羞恥。

触手の這い回る感触、全身に刻まれた疼き。

そのすべてを変えて――

「――はあッ!!」

振り抜いた拳が淫霊の頭部を砕き、霊体を爆散させた。

しばらくして、屋上に残ったのは、衣服を乱し、膝をつく少女だけだった。

「はぁっ……っ……ふ、ふぅ……」

太ももには粘液が残り、胸元は荒い呼吸で浮き沈みしている。

頬は赤く、瞳はどこか光を宿していた。

「これが…私の…力なの…?」

自分の内側に眠っていた“異質な力”。

それを、少しだけ理解した気がした。