第40話 装置がほどける刻(後半)

2026/02/13

淫霊を強化すると噂される装置――

それを解除するため、ひよりは鴇田とともに任務に就いた。

解除専門である彼が、無事に作業へ集中できるように。

ひよりは迷いなく、囮となる道を選んだ。

けれど、装置の影響を受けた淫霊の力は、想像をはるかに超えていた。

気づいたときには、すでに遅かった。

黒く蠢く触手が、彼女の四肢を絡め取っていた――。

ぬるり、と。

 

その感触はあまりにも生々しく、太ももをなぞるように、ゆっくりと這い上がってくる。

白く、きめ細やかな素肌に、粘りを含んだ温度が直接触れ、ひよりは思わず息を詰めた。

(……近い……)

触れられたくない場所へ、確実に近づいてくる感覚。

それを想像するだけで、胸の奥がきゅっと疼く。

脚に力を込め、閉じようとする。

だが、足首を固く縛る触手は、まるで意思を持つかのように、逃げ場を与えない。

抵抗する間もなく、先端は太ももをなぞり、舐めるように動きながら、やがて足の付け根へと辿り着く。

布地の上に、つん、と確かな存在感が伝わった。

「……ん……」

声になりきらない音が、喉から零れる。

淫霊と触手は、まるで思考を共有しているかのようだった。

目的の場所に触れると、確かめるように、いじらしく布越しに刺激を与えてくる。

 

その瞬間、ひよりの脳裏に、これまで任務で刻まれてきた感覚が次々とよみがえった。

下腹部がきゅっと縮こまるような感覚と同時に、じんわりと、内側から熱が滲み出す。

触手が離れるとき、布地との間に残る、細く引き延ばされた感触。

それを確かめるかのように、淫霊は同じ動作を、執拗なまでに繰り返す。

つついては、ゆっくりと離れる。

また触れて、確かめる。

「あ……っ……」

ひよりの身体は、そのたびに微かに震えた。

唇を強く噛み締め、声が漏れるのを必死に堪える。

理性は拒んでいる。

けれど、身体は正直だった。

 

ふと視線を祠の方へ向けると、鴇田の姿が目に入った。

彼は何度もちらちらとこちらを気にしながら、装置の前で手を動かしている。

その表情には、焦りと、はっきりとした罪悪感が滲んでいた。

自分のせいで、ひよりが危険な状況に追い込まれている――

そう思っているのだろう。指先は迷い、作業の動きも定まらない。

(……だめ……見ないで……)

ひよりは、心の中で強く願った。

(早く……こっちは気にしなくていいから……)

腕に、脚に、必死に力を込める。

けれど、装置によって増幅された触手は、びくともせず、まるで彼女の抵抗を嘲笑うかのように絡みついていた。

(……せめて……装置さえ……)

この状況を変えられるのは、ただひとつ。

祠の前にいる鴇田が、装置を解除すること。

それしか、ない。

それまで耐えるしかないという現実に、ひよりはわずかな無力感を覚えながらも、唇を噛み締めた。

 

だが、そんな決意など意にも介さないかのように、触手は執拗に存在感を主張し続ける。

新たな影が、今度は彼女の胸元へと忍び寄った。

視線を落とせば、シャツのわずかな隙間――

そこへ、ためらいなく入り込んでくる。

「……っ……」

思わず息を呑む。

布の内側で、何かがゆっくりと動く。

中でもぞもぞと蠢く感覚が、神経を逆撫でする。

じんわりと、シャツが重くなる。

淡い色の布越しに、身体の輪郭が、否応なく強調されていくのがわかった。

それまで探るように動いていた触手が、ふいに動きを変えた。

 

一瞬の静止。

そして――強引な力。

ボタンが弾ける乾いた音とともに、布地が耐えきれずに裂ける気配がした。

その瞬間、ひよりの年齢に似つかわしくないいほどの豊かな膨らみが上下に揺れ、隠されていた輪郭が夜気にさらされる。

視線を向けられること自体が耐え難く、彼女は反射的に声を上げた。

「いやっ…!」

拘束していた触手は、まるで彼女の反応を楽しむかのように動きを変え、両腕を後ろに組むような姿勢になった。

無理な姿勢を強いられたことで、肩にかかっていたシャツはするりと落ち、手首の位置までずり落ちると、肌に直接、冷たい空気が触れた。

大人びたフルカップの布地が支えている様子が、隠されていた重みと存在感を、否応なく主張する。

触手の先が、胸元に残る布へと絡みつく。

器用にもためらいのない動きで、フロントホックが外されると、抑えられていたものが一気に解放された。

覆うものがなくなった大きな膨らみは、抑えられていたものが溢れんばかりに、ありのままの姿となった。

触手の先端が肩にかかっているストラップを押し下げると、下着はシャツに重なるように、手首の位置まで落ちた。

支えがなくなったものの、その形は保たれており、ハリがありつつも柔らかな雰囲気を醸し出す。

剥き出しになった大きな膨らみの先にある薄ピンク色の突起が、ひんやりとした空気に触れ、やけに感覚を研ぎ澄ませ、敏感になった感覚を否応なく呼び覚ます。

ぞくり、と。

 

身体の奥が、理性とは無関係に反応してしまうのがわかる。

思わず視線を伏せ、ひよりは小さく心の中で呟いた。

(……やだ……)

遮るものが失われたことで、触手はためらいなく彼女の輪郭をなぞり始めた。

ゆっくりと、確かめるように――まるでどんな風に扱ったらよいのか知っているような動きだった。

まとった粘り気のある半透明の液体が、なぞった痕を残すように、ひよりの肌の上をゆっくりと描いていく。

ぬめりを含んだその感触は、触れた場所を艶やかに染め上げ、まるで肌そのものが応えるかのように、淡く輝きを帯びていった。

淫霊は、しばらく動きを止め、その光景に見入っているようだった。

 

ひよりの身体が放つもの――

それは、ただの人間にはない、引き寄せる力。彼女自身が忌み、同時に抗いきれずにいる“特異体質”の証。

(……見られてる……)

そう意識した瞬間、胸の奥がざわりと揺れる。

羞恥と恐怖が入り混じるはずなのに、なぜか否定しきれない熱が、内側から滲み出してくる。

やがて、その液体は胸全体に行き渡り、触れている場所がじんわりと火照り始めた。

ただ触れられているだけなのに、感覚が鋭く研ぎ澄まされ、わずかな刺激にも身体が過剰に反応してしまう。

特に先端にある突起は感じやすく、淫霊はそれを知ってか知らずか、本能がそうさせるのか、入念に塗り込むと、感度を確かめるかのように、時折、その先端をピンっと弾いてみせた。

弾くような刺激に、ひよりの思考は一瞬、白く飛んだ。

「あんっ…」

ひよりは思わず声が漏れ、身体を小さく震わせた。

(……この感じ……やっぱり……)

過去の任務で、何度も味わってきた感覚。

触れられるたび、身体の反応だけが増幅されていく、あの異質な作用。

淫霊が纏うそれには、感覚を歪め、記憶にまで残る“何か”がある。

ひよりは、それを理屈ではなく、身をもって知っていた。

 

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そして、その熱と余韻は――

触れられている間だけのものではなく、

任務が終わったあとも、身体のどこかに、消えない名残として残り続けることを。

(このままだと、私また…)

先の展開を思い描いてしまった瞬間、ひよりははっと我に返った。

身体の奥に溜まった熱が、もはや隠しきれないほどに下半身を覆う布地がすでにぐっしょりと広がっているのを、否応なく自覚してしまったからだ。

触手はなおも、探るように、確かめるように、同じ動きを繰り返している。

それだけのはずなのに、ひよりの身体は、わずかな刺激にも過敏に反応してしまうほど、追い込まれていた。

「あ……っ……」

抑えたはずの声が、息と一緒に零れ落ちる。

そのたびに、胸の奥がきゅっと締めつけられた。

(……解除はまだ……なの……?)

祠の方へ、思わず視線を走らせる。

 

解除作業に集中しているはずの鴇田――

けれど、その手は止まり、横目でこちらを見ているのが、はっきりとわかった。

(……え……? ちょっと…)

ひよりは驚きとともに、見られているということに恥ずかしくなった。

気づいた瞬間、胸の奥が跳ね上がる。

 

見られている――

その事実が、恐怖よりも先に、ひよりの意識を強く揺さぶった。

「……いや……見ないで……っ!」

必死に身体を揺らして抵抗の意思を示す。

だが、それは拘束を解くことにはならず、虚しくも豊かな房がその余韻を残すだけだった。

その声に、鴇田は我に返ったように肩を震わせ、慌てて祠へと向き直る。

再び手を動かし始めるものの――

その視線は、完全には切り離せていなかった。

見られているという羞恥。

それを意識した途端、ひよりの身体は、さらに熱を帯びていく。

顔が、熱を持って赤くなるのがわかる。

逃がし場を失った熱が、全身を巡り、やがて汗となって滲み出した。

その瞬間、粘りを帯びた触手が、下半身の布を押し上げて中へと、その境界を越えた。

「ああっ!」

全身を貫くような衝撃が走り、ひよりは思わず息を詰める。

抗おうとした力が一気に抜け、身体は大きく揺れた。

(…また霊力が…)

覚えのある感覚だった。

 

この疼きとともに、内側から何かが削がれていく――

静かに、確実に奪われていく兆し。

ひよりの視界の端で、影が歪む。

淫霊は、満足げにそれを味わっているかのようだった。

やがて、触手の先端は執拗に溝を辿りはじめる。

わずかな動きが、蒸れた空気を含んだ感触として伝わり、肌の奥に残る。

液体が混ざり合い、動くたびに、その音が耳に届く。

音自体は大きくないはずなのに、感覚とともにやけに耳の奥に残る。

(…私…こんなにも感じて…)

意識は、まだはっきりしている。

拒むべき状況だと、理解もしている。

それなのに――身体は、裏切るように反応してしまう。

理性と感覚が引き裂かれ、行き場を失った想いが胸に溜まる。

下着の内側で蠢いていた触手がついにゆっくりと中へと入ってくる。

それが内側へ踏み込んだ瞬間、ひよりの喉から押し殺せない声が零れた。

「あああっ!…」

わずか数センチ入っただけで、再び大きく身体はびくりと跳ね、続いて小さく震える。

 

同時に、内側から力が抜け落ちていく感覚――

(……また……)

しかし、触手は躊躇しない。

ひよりの様子とは関係なしに、それは容赦なく奥へと進んでいく。

奥へと進むたびに、ひよりの身体は反射的に抗おうと力を入れる。

だが、その抵抗が、押し出すような力が、かえって感覚を鋭くしてしまうことを、彼女は知っていた。

「あっん…んっ…」

力が入るほど、その感覚が強くなり、それだけしか考えられなくなる。

思考は、次第にひとつの感覚に縛られていく。

それ以外のことが、何も考えられなくなる。

しばらく奥まで入ったかと思うと、すっと戻っていく。

次の瞬間、先ほどよりも速く、容赦なく、再び奥へと進行を始める。

「ああっ!!…」

不意打ちのような刺激に、全身が大きく反り、震えが走る。

雷に打たれたかのような感覚が、隅々まで駆け巡った。

内側で押し返そうとする力が、徐々に弱まっていく。

それを察したかのように、触手の動きは、次第に勢いを増していった。

それが前後に動くたびに、液体と湿った空気が含むような艶めかしい音をたてて、白く濁りをみせる。

ひよりの思考は、少しずつ霞んでいく。

輪郭が曖昧になり、時間の感覚さえ、遠のいていく。

「あっんあっ…」

声が、意志とは無関係に零れ落ちる。

そのたびに、理性が薄く剥がされていくのがわかった。

(…はや…く…)

ただ、終わりを求める想いだけが、かろうじて意識を繋ぎ止めていた。

 

意識が飛びかけたそのときーー

四肢を拘束していた触手の力が、ふと抜けるのを感じた。

(……え?)

視線を祠へ向ける。

そこには、鴇田がこちらを見つめる姿があった。

彼の手元で、装置はすでに静かに停止していた。

 

――解除完了。

その事実を理解した瞬間、ひよりの身体に残っていた微かな力が目を覚ました。

「……っ!」

腕を振るい、拘束を振りほどく。

わずかに残る感覚を押し殺し、拳を固めて構えると、周囲を包囲していた淫霊たちに向けて一気に打ち込んだ。

虚を突かれた淫霊は、反応も遅れ、そのまま空中に霧散していく。

先程までのような強さは、すでにどこにもなかった。

装置の力を失った今、ただの影でしかない。

 

すべてを祓い終えると、ひよりはその場に膝をつき、深く息をついた。

荒い呼吸の中で、肩がわずかに上下する。

ひよりは力なくその場に両手を膝につき、息を整えた。

短めのスカートの太ももを伝って滴った液体が、膝についた手のひらに触れた。

半透明のそれは、さっきまでの出来事を、否応なく思い出させる。

「はぁ…はぁ…… んっ…」

途切れたはずの感覚が、時折、身体の内から微かに呼び戻される。

熱の名残が残るように、びくん、と小さく震えが走る。

 

ゆっくりと足音が近づいてくる。

「だ、大丈夫ですか…?」

鴇田の声はどこか気まずそうで、視線は宙を泳いでいた。

けれど、ひよりの方をちらりと見ていたことを、彼女は敏感に察した。

「え、ええ……」

息を整えながら、慌てて衣服を直す。

シャツのボタンは幾つか飛んでしまい、きちんと留めることはできなかった。

いつもなら胸元で留めている箇所のボタンはどこかへ飛んでいってしまい、普段より胸元が露わになり、肌に残った液体が、艶やかに光を反射する。

ひよりは視線を感じて、反射的に胸元を手で覆った。

鴇田は気づいたように目を逸らし、ぎこちなく身体の向きを変えた。

「あ、危ないところ……でしたね……」

見ていたことを隠すかのように、言葉に詰まらせながらも、間を埋めた。

「はい……でも、助かりました。本当に……」

静かにお辞儀をして礼を述べると、鴇田は小さく頷いた。

言葉は、それ以上なかった。

互いに何かを気にしつつも、触れずにそっと包み込むような、曖昧な距離。

静かな夜気の中、二人は並ぶことなく、けれど同じ方向を向いて、ゆっくりと帰路へと足を進めていった――。

 

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