
第20話 映し出す欲望(後編)
公開日: 2025/08/13
中級封霊師試験──
幻術の世界の中、ひよりは“自分自身”とそっくりな影の存在と対峙していた。
女のひよりは微笑みながら、執拗にひよりの感覚を探るような動きをやめなかった。
胸元への刺激が続く中、不意に──ひよりの脚の裏側、膝のあたりに、ぬるりとした感触が這い上がってきた。
ひよりは普段どおりのミニスカートを履いているものの、もはや拘束された両脚では無防備だった。
それはねっとりとした粘液を床に垂らしながら、ひよりの太ももへと滑り込んだ。
先端には幾重にも重なった薄いヒダがあり、まるで生きているかのようにぬめりと蠢いていた。
そのヒダ同士がゆっくりと絡み合っては離れ、細く光を帯びた糸を引いていくさまは、どこか妖しげだった。
それが静かに、這い上がってくるのを視界にとらえた瞬間、彼女の背筋をひやりとさせた。
(ワタシ、知ってる…コッチもしてほしいんでしょ)
そう言うと、無数の細やかなヒダが下着を押し上げて入り込むと、敏感な部分に沿ってゆるやかに動き出した。
ひとつひとつのヒダが、まるで意志を持っているかのように動いているのを感じて、ひよりの下半身は疼き始めた。
下着はすでに触手の粘液と、ひより自身が分泌した液体によって湿りきっていた。
ひよりはその湿りを感じると余計に、身体の中から何かが溢れて出てきそうな感覚だった。

女が胸に与える繊細な刺激と、触手が蠢く感触がもたらす別方向からの揺さぶり──
二重に重なる感覚に、ひよりの思考は次第に追いつかなくなっていた。
理性のすき間に入り込むような快感は、徐々に彼女の身体の奥へと染みわたり、
耐えようとするたびに、かえって敏感に反応してしまう自分に気づかされる。
(アナタはまだ気づいてないだけ… 本心では、こういうコトがしたいって…)
「…やめて!…そんな…こと…ない…!」
圧倒される感覚の波にさらされながらも、ひよりはかすかに唇を噛みしめた。
まだ抵抗を見せるひよりの姿を見て、女はさらなる行動にでる。
指先で乳首を弾いたりした後に、乳輪を口に咥えて吸い上げ、口の中では舌で乳首を転がすような刺激を繰り返す。
下半身を刺激していた触手も、それまで表面を這って動くだけだったが、ぬるりとひよりの中へと侵入する。
(いやっ…中は…だめっ…)
声にならないここの叫びとは裏腹に、先端の無数のヒダが、ひよりの身体の中の壁に這うように徐々に進行する。
抑えていた昂ぶりが、ついに臨界を超えた。
ひよりの背中は大きく反り、細い身体がわずかに震える。
波のように広がる余韻に包まれながら、彼女の吐息が静かに漏れた。
一瞬、すべての力が抜け落ちたかのように、ひよりの身体はふっと緩んだ。
しかしその隙を縫うように、次なる波が容赦なく押し寄せてくる。
彼女の内側はその刺激に応じるように反応し、無意識にきゅっと緊張をはらんだ。
締め上げたことによって、よりヒダの感覚が肌に伝わりそれがまた新たな刺激へつながる。
「ん……ぅん……もう……っ」
(…こんなの気持ちいいわけが…ない…なのに、どうして…)
この類の刺激は、表面的な他のものとは異質なものだった。
なにかが身体の中へと入ってくる感覚、見えない何かが刺激しているという感覚・想像が、ひよりの心と身体を、より深くかき乱していくのだった。
触手の動きがゆっくりと、しかし確実に繰り返されるたびに、胸の奥に潜む感覚がじわじわとせり上がってくる。
その感覚が頂点に近づいていると気づいたその瞬間、まるで意図を読まれたかのように、奥へと鋭く届くような感触がひよりを貫いた。
「んん…ぁあ…イク!」
再び、ひよりは快感に襲われ、腰がわずかに浮き上がり、柔らかく波打つように全身をうねらせた。
その瞬間、触手が身体の外に押し出され、入口から身体の中で分泌されたであろう液体が一瞬にして体外へと溢れ出た。
床には小さな水たまりができるほどだった。
ひよりは、自らの身に起きたことの意味を悟り、胸の奥から恥じらいが込み上げてきた。
わずかな粘性を含み、ぽたぽたと流れ落ちるものもあれば、太ももをつたって流れ落ちるものもある。
(ダメ…このままじゃ…意識が持っていかれる…)
(何か方法を…この幻術を、どうにかして解かないと…!)
そう考えている間に、ふたたび触手が中へと侵入し蠢きはじめる。
「ああっ……」
思考がかき乱される中で、ひよりはふと思い出した。
脳裏に浮かんだのは──先日、姉の存在を知る女が囁いた言葉。
頂点に達したときの力
(もし、それがこれまで抵抗して耐えていたものが溢れ出てしまう形ではなく、受け入れた上で制御ができるのだとしたら…)
ひよりの中で一つの仮説とともに、覚悟が決まった瞬間だった。
(……そうだ…私はこういう体質なんだ…でもそれが、私を弱くする理由には…ならない…!)
ひよりは、覚悟を決めるように静かに目を閉じた。
ぎゅっと張り詰めていた全身の緊張をふっと解き、意識を内へと研ぎ澄ませていく。
身体の中できゅっと絞り上げていた力がすっと抜けると同時に、それは奥を一突きした。
その瞬間、内側から湧き上がる熱が、ひよりの奥底からこみあがってくるのが分かった。
「んあっ…感じる… でも…私は…流されない…」
「私はこの力を…自分の意志で使う!」
その言葉と同時に、ひよりの全身を光のような霊力が駆け巡り、眩い輝きとなって視界を包み込んだ。
気づけば、ひよりは静かな空気の中でまぶたを開いていた。
そこは、あの無機質で清廉な空間──白い部屋。
真正面には、変わらぬ表情で立つ試験官の姿があった。
「おめでとう。合格だ」
声は柔らかく、どこか誇らしげだった。
ひよりは、まだ呼吸を整えきれずに、部屋の中央で座り込んでいた。
一瞬、何が起きたのか、ひよりには把握しきれなかった。
けれど、幻術が解け、現実の感覚がゆっくりと戻ってきたと気づいたとき、胸の奥に溜まっていた緊張がほぐれ、静かに安堵が広がっていった。
そのまま深く息を吐いたひよりだったが──
ふと足元に目をやり、床に丁寧に畳まれたシャツとブラジャーを見つけた瞬間、肩がびくりと跳ねた。
「……っ!」
思わず両腕で胸元を覆い隠すようにし、頬が赤く染まっていく。
羞恥と戸惑いが一気に押し寄せてくる中、試験官はふいに背を向けて歩き出した。
「試験結果については、ぼくから封霊会に報告しておくよ。今日は、ゆっくり休むといい」
まるで何事もなかったかのような穏やかな口調でそう言うと、静かにドアを開き、ひよりの返事を待たずに部屋を後にした。
全身にはまだ火照りが残り、ひよりは少し呼吸を整えながらも、急いでブラジャーとシャツを身に着け、そっと立ち上がる。
そのとき──
下着の奥から、熱を帯びた液体が太ももを伝って流れ落ちるのを感じた。下着が湿っていることは確認するまでもなかった。
もし幻術の中で感じたことが現実にまで影響しているのだとしたら──
あの試験官に、どこまで見られていたのだろう。
そう考えた瞬間、ひよりの頬がかぁっと熱を帯びた。
部屋には、どこか甘く、そしてわずかに刺激的な香りがほのかに漂っている。
まるで、試練を経た彼女の身体と心の余韻が、その空間に残っているかのようだった。
新たな力の目覚め。
それは同時に、自分自身と向き合う覚悟を問われるものでもあった。
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