第21話 耐久の砂時計

公開日: 2025/08/17

先日の試験を経て合格を言い渡されたひよりは、ついに中級封霊師となった。

その響きは誇らしくもあり、同時に背筋を震わせるほどの責任を伴っていた。

封霊会本部の執務室。

「今日から晴れて中級封霊師だね」

上役の声は穏やかでありながら、どこか試すような硬質さを帯びていた。

「分かっているかもしれないけれど、中級以降は任務の質も難度も跳ね上がる。覚悟はいいね?」

「…はい!」

ひよりの瞳は迷わずまっすぐに前を見据え、その声には新たな力を受け止める決意が宿っていた。

「いい返事だ。──では今回の任務を告げよう。我々が長年探し求めてきた『封印具の欠片』。その反応が、とある遺跡で確認された。君にはそこへ赴き、回収してきてもらう」

これまでひよりが任されたのは、戦闘を中心とした比較的明快な任務ばかり。

だが、中級として歩みを進めた今、託されるのは戦闘に限らない多様な使命。

淫霊の報告はないとはいえ、失われた秘具を奪還するという重い責務が、彼女に初めて課せられたのだった。

「わかりました」

ひよりは深く一礼し、胸に熱を秘めながら、新たな任務へと歩み出した。

 

湿り気を帯びた空気が肌にまとわりつく。遺跡の入口に立ったひよりの頬を、一筋の汗が伝い落ちた。

(……ここに『封印具の欠片』が……。中級として初めての任務、必ず成功させないと──)

鼓動を胸に感じながら、彼女はゆっくりと暗がりの中へ踏み込んでいった。

一歩、また一歩。薄暗く冷えた空気が全身を撫でる。

慎重に歩みを進めても、不思議なほどに怪しげな気配はなく、静寂だけが重くのしかかる。

(……おかしい……こんなに何もないなんて)

 

ついに辿り着いた最奥の間。石壁に囲まれた空間は、不気味なまでに静まり返り、自分の靴音さえも異様に大きく響く。

その奥、祭壇の上には、淡く光を帯びた『封印具の欠片』が鎮座していた。

「……あった……」

ひよりは呟き、慎重に手を伸ばす。指先が触れ、欠片を持ち上げた、その刹那──。

ガチャン、と低く鈍い音が空間に響き渡った。

(……しまった、罠!?)

遺跡の静けさに油断していた自分を、ひよりは瞬時に悟る。

しかし気づいたときにはすでに遅かった。

足元から鋼の拘束具がせり上がり、背後からも冷たい鎖が伸びる。

手足に巻き付き、両腕・両脚を拘束され──瞬く間に、ひよりの身体は祭壇の前にさらし出されるように固定されてしまった。

 

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必死に身体へ力を込めてみても、鎖の拘束は冷たく重く、微動だにしない。

(……びくともしない……!)

思考が追いつかぬまま、石壁の奥からガチャガチャと機械音が響き、細長いアームが次々と姿を現した。

ひよりは視線を横に走らせ、その異様な光景を捉える。

(なんとか抜け出して、欠片を持ち帰らないと……)

しかしアームは一つ、また一つと数を増し、やがて一斉にひよりへと襲いかかる。

冷たい金属でありながら、その先端の動きは驚くほど繊細で、太ももをなぞり、大きな胸をやわらかく撫でていった。

「……っ!」

無意識に身体が跳ねる。規則的に繰り返されるその動作は、まるでひよりの反応を測るかのように淡々としていた。

やがて、天井から吊り下げられた大きな砂時計が降りてくる。

幻想的な光を帯びた砂が、上から下へと落ち続け、そのたびに淡い輝きが空間を満たしていく。

(……なに、これ……?)

困惑の中、突然アームの先端が細かく震え始めた。

「ひゃっ……!」

予期せぬ刺激が電流のように奔り、ひよりの身体は反射的に震えた。

熱がじわりと宿り、確実にその身を火照らせていく。

上半身へ伸びたアームは、シャツ越しに乳房の輪郭をなぞり、ゆっくりと先端へと迫っていく。

同時に下半身側のアームは、太ももを撫でながら下着に向かって、徐々に上へと這い上がってきた。

“近づいてくる”というだけの感覚が、ひよりの想像をいやがうえにも掻き立て、胸の鼓動を速めていく。

(……どうすれば……)

脱出の術を探ろうと必死に思考を巡らせるその瞬間、上半身のアームがついに敏感になった乳首を捉え、下半身のアームは下着越しに滑らかな動きを始めた。

「……んっ……」

細やかな振動が規則正しく重なり、抗えぬ熱を胸の奥へと積もらせていく。

金属でありながら、肌を包み込むような機械的な刺激──未知の感覚がひよりの全身を侵食していった。

(……でも……これくらいなら……耐えられる……!)

必死に身体をよじると、さきほどまで微動だにしなかった拘束具が、わずかに緩んでいるのに気づく。

視線を上げれば、砂時計の砂が落ち、残りが少なくなっていた。

時間が、確実に刻まれている。

その瞬間、アームの先端が突然、荒々しいほどの強い振動へと変わった。動きも一気に速まり、容赦ない刺激が押し寄せる。

「ああっ……!」

ひよりは抑えきれずに身体を仰け反らせ、全身を駆け抜ける衝撃に呑み込まれた。

 

砂時計の上方から、さらさらと新たな砂が降り注いだ。積もった瞬間、アームの振動は弱まり、先ほどのように細やかで緩やかな刺激へと戻っていく。

(……まさか)

ひよりの脳裏に、ひとつの仮説が浮かんだ。

(すべて砂が落ちきったとき……この罠は解除されるのかもしれない……。でも、砂が減れば減るほど──)

彼女は微弱な刺激に身体を小さく震わせながらも、必死に観察を続けた。

やがて砂が再び減り始め、残量が少なくなるにつれて、予想どおりアームの動きは激しさを増す。

「……っんあっ!」

思わず声が零れ、手足が震える。

(やっぱり……!)

仮説は確信に近づく。だが同時に、砂が減れば減るほど容赦のない刺激が襲いかかり、限界を越えるたびに砂は補充されてしまう。

落下する砂の速さから、おそらくすべてが落ちきるまでに10分ほど──。

(んっ……あと少し耐えれば……!)

ひよりは呼吸を乱しながらも、規則的に繰り返される刺激に少しずつ身体を慣らし始めた。

しかし、残り3分を切ったその瞬間、アームの動きが突如として変貌する。

振動はさらに強くなるだけでなく、唐突に止まったかと思えば再び襲いかかる、予測不能な乱れを見せた。

「ぁああっ……! だめ……イっ……!」

堰を切ったように、ひよりの身体は大きくよじれ、声と共に果てへと追い込まれる。

(……もう少しだったのに……!)

虚しくも砂は補充され、振動は再び弱まる。

荒い息遣いと金属音だけが、冷たい空間に響き渡っていた──。

 

罠に囚われてから、どれほどの時が流れただろう。

絶え間ない刺激に晒され続けたひよりの身体は小刻みに震え、意識は霞むように朦朧としていた。

それでも、ふたたび砂時計は残り3分を切ろうとしていた。

(……くる……)

覚悟を決め、ひよりは拳を握りしめる。

次の瞬間、アームが再び不規則に震え出し、全身へ強い衝撃が奔った。

「んんっ……んあ……っ」

唇を噛み、耐え抜く。

落ちていく砂を横目に確かめながら、刻一刻と続く時間が、永遠にも思えるほど長く感じられた。

小刻みに身体が震えるたび、豊かな胸が揺れ、その動きが甘い余韻を漂わせる。

下着はすでに濡れきっており、滴り落ちた雫が太ももを伝い、ついには膝先へと儚く垂れていった。

(……まだ……なの……)

そして──砂がすべて尽きる瞬間。

アームは唐突に動きを止め、冷たい拘束具が緩んでいくのが分かった。

「はぁ、はぁ……」

(……耐えきった……!)

残る力を振り絞り、ひよりは手足を振りほどくようにして拘束を破り、ようやく自由の身となった。

だが一歩踏み出した途端、脚に力が入らず、その場に崩れ落ちる。

刺激はすでに終わったはずなのに、肌の奥に記憶が残り、ぴくりと余韻に反応してしまう。

耐え抜いたはずなのに、心の奥底に疼くものが拭えず、複雑な感覚が胸を締めつけた。

 

深く息を整え、乱れたシャツとスカートを正し、ひよりは祭壇の上に置かれた『封印具の欠片』を手に取り、祭壇の間を後にした。

(……危ないところだった……。あのままイき続けていたら、…どうなっていたのか……)

荒い呼吸を整えながら、ひよりは歩を進める。

静かな回廊を進むたびに、先ほどの刺激の余韻がふと身体を震わせた。

中級封霊師としての初任務。

それは力だけでなく、精神までも揺さぶられる危険を孕んでいる──そう思い知らされた。

(……中級になったということは、こういう危険をも背負っていく覚悟が必要なんだ……)

自らに言い聞かせるように胸に手を当て、ひよりは黙々と出口へ向かう。

やがて眩しい外光が視界を照らした。

遺跡を抜け出したひよりは、欠片をしっかりと握り、帰路へと足を踏み出していった。

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