
第23話 甘い崩壊(後編)
公開日: 2025/08/19
封霊会でも名高い先輩──榊原れんとの任務。
彼は戦闘の最中、不意に淫霊の瘴気を浴び、まるで取り憑かれたかのように理性を失った。
そして、その欲望のままに、ひよりを拘束する。
あらわにさらされた胸元に、熱を帯びた指先と舌先が容赦なく触れ、幾度も繰り返し刺激を与えてきた。
「……っ、あぁ……」
抗おうとする心とは裏腹に、容赦ない感覚が次々と押し寄せ、ひよりの全身を痺れさせていく。
(……だめ……っ……!)
その瞬間、視界が眩いほどに白く染まり、身体は大きく仰け反った。
「……胸だけで、いくなんて。──きみって、本当にエロいんだね」
耳に届いたはっきりとした声に、ひよりは驚き、思わず男の顔を仰ぎ見た。
そこには、先ほどまで虚ろだった瞳ではなく、冷静に光を宿した榊原の目があった。
「……えっ……」
「やっと気づいたかい? 俺は最初から瘴気になんて当てられていない」
にやりと唇を吊り上げ、彼は続ける。
「初めて君を見たときから……ずっと、こうしたいと思っていたんだ」
その言葉に、ひよりの背筋を冷たいものが走る。
封霊会の中でも人望が厚く、女子から人気もある榊原。その裏に潜んでいたのは、陰湿に欲望を燃やし続ける一人の男の顔だった。
「……こんなこと、していいと思ってるんですか……! このこと、報告しますよ……!」
必死に声を張るひより。正義感が、その羞恥と恐怖をかき消そうとする。
だが榊原は余裕を崩さない。
「報告? 君がそう言ったとして……誰が信じると思う?」
その言葉に、ひよりは息を呑む。
「……っ」
「その顔、たまらないよ。……けだものを見るように怪訝そうなのに、感じてしまうのを必死に堪えている──そんな表情が」
榊原はそう囁くと、片手を伸ばしてひよりの頬に触れた。
「やめて……! 触らないで!」
必死に拒む声をよそに、彼の顔はじりじりと近づいてくる。
甘い整った顔立ちが間近に迫り、逆に鼻につくほどの自信を漂わせていた。
ひよりは視線を逸らし、抗う態度を示す。
だが次の瞬間──唇と唇が重なった。
「……っ! ──」
瞳孔が開き、時間が止まったかのような錯覚。
脳裏がじんわりと痺れ、とろけるような感覚に囚われていく。
やがて唇が離れ、榊原は意地悪そうに微笑んだ。
「あれ……? もしかして、初めてのキスだったのかな?」
図星を突かれたひよりは、声を失い、ただ頬を染めて視線を横に逸らすしかなかった。
「……こんなに魅力的なのに、意外とうぶなんだね」
からかうような言葉に、ひよりの胸は羞恥と屈辱で熱く染め上げられていった。
「君のことは、この任務の前から調べていたんだよ」
榊原の声は妙に自信に満ちていた。
「もともと特異体質で感じやすい上に……過去の任務で淫霊から受けた刺激が、さらに敏感さを高めているみたいだね」
そう言いながら、彼の手が太ももへと伸びていく。
指先が内ももをさわさわとなぞるたび、ひよりの肌は粟立ち、小さな震えを刻んだ。
冷たい空気の中でも、下着越しの熱と湿りは隠せない。
「こんな格好してるからさ…ほら、こんな簡単にーー」
男の指は太ももからさらに上へと滑り、下着越しに触れる。
肩幅ほどに開かれて固定された脚では、ミニスカートなど意味を成さず、ただ無防備に曝されるだけだった。
「あんっ…」
下着越しに何度か往復する指先。
そして──するりと布の隙間に忍び込み、熱を帯びた奥へ触れた。
湿りを帯びた空間に指先が入り込み、ねっとりとした液体が指先に触れる。
指先に伝わった湿りを見せつけるように囁かれる。
「ほら、もうこんなに濡れてる。やっぱり……こういうことされるのを期待していたんじゃないか?」
突きつけられた言葉に、ひよりの頬は羞恥で真っ赤に染まった。
「ちがっ……これは……」
必死に声を絞り出すが、言葉が続かない。
榊原は楽しげに目を細め、「これは……何かな?」と意地悪く問いかけた。
その声音に気味悪さを覚え、ひよりは強い視線で睨みつける。
「そう…まだ認めないんだな。──じゃあ、これならどうかな」
彼の指先を割れ目にそって動かしたかと思うと、指先の第二関節ほどの深さまで侵入し、容赦なく蠢いた。
「あああっ!…」
突如として奔った衝撃に、ひよりの全身が小刻みに震え、思わず背を反らす。
静まり返った空間に、粘性の高い液体と空気が含んだときの音が響き渡り、そのすべてが羞恥を煽った。
唇を噛み締め、耐えようとするひより。
そんな姿を見下ろしながら、榊原は得意げに囁いた。
「さすが……特異体質と呼ばれるだけのことはある。──もっと、その反応を見せてくれよ」
あまりの恥ずかしさに、ひよりは思わず視線を伏せた。
そのとき、男のパンツ越しに押し上げられた盛り上がりが目に入り、胸の奥がざわつく。
"それ"が、何であるかは察してしまった。ひよりは慌てて視線を横に逸らす。
しかし、その仕草さえも男の興奮を煽ったのか、さらに硬直し、布地を強く押し上げていく。
「…もう我慢できないな」
熱を帯びた声とともに、榊原の手が腰元へとかかった。
パンツを下ろそうとする仕草に、空気が張り詰めたその瞬間──
突然、榊原の携帯が震え、封霊会からの通信が入った。
『周囲に淫霊反応を確認。もうじき仲間がそちらに向かう──』
「……わかりました」
短く答えて通話を切ると、榊原は舌打ちをした。
「……ちっ、なんだよ、こんな時に。これからいいところだったのに……」
普段の柔らかな物腰からは想像もつかない、露骨に荒んだ言葉。
手元の携帯をそのまま構えると、迷いもなくカメラを起動させた。
「……記念に、ね」
ぱしゃ、ぱしゃ──と乾いたシャッター音が重ねて響く。
そのレンズが自分に向けられていると気づき、顔を横に背け、必死に視線を逸らす。
だが男は構わず数枚撮影を続け、にやりと笑みを浮かべた。
「…この写真、どう使うかは君次第だ」
その声音に、ひよりの心は怒りと屈辱で震えた。
パチン、と指を鳴らすと、見えぬ力で固定されていた拘束が解け、ひよりの手足は自由になった。
力が抜け、彼女はその場に崩れ落ちるように座り込む。
唇に残る熱い感触がまだ消えず、無意識に指先でそこをなぞってしまう。
榊原はそんな様子を見下ろし、冷たく言い放った。
「分かってると思うけど……このことは誰にも言わないように。──まあ、言ったところで誰も信じないだろうけどね」
「……っ……」

憤りと悔しさが胸に込み上げ、ひよりは鋭く榊原を睨みつけた。
「おいおい……そんな怖い顔するなよ」
榊原は肩をすくめ、再び甘い笑みを作ってみせる。
「もうすぐ仲間が到着するみたいだ。さっきみたいに、また一緒に戦ってくれよ……?」
ひよりは何も返さず、ゆっくりと立ち上がる。
地面に落ちていたブラジャーを拾い上げ、震える指で身に着けた。
しばらくして、仲間の封霊師たちが駆けつけてきた。
「大丈夫か? 間に合ったみたいだな」
「……ああ、助かったよ。ありがとう」
榊原は、いつもの柔らかな笑みを浮かべ、誰もが慕う“表の顔”に戻っていた。
先ほどまでの獣のような眼差しも、荒んだ口調も、影も形もない。
ひよりはその変貌を目の当たりにし、胸の奥を冷たいものが締めつける。
──裏の姿を知ってしまったのに、それを告げることもできない。
声を出そうとするたび、喉が強張り、言葉が凍りついた。
「よし、仕切り直してもう一度いくぞ」
仲間の声が空気を切り替える。
ひよりは一瞬だけ目を伏せ、深く息を吸い込むと、静かに頷いた。
「……はい」
その瞳には、誰にも言えない影が宿っていた。
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