
第26話 優越の証明(前編)
公開日: 2025/08/27
榊原がひよりの寮の部屋を訪れたあの日から、数日が過ぎていた。
胸に残された記憶はまだ生々しく、ふとした瞬間に思い出しては心をざわつかせる。
訓練場で榊原を見かければ、まるでフラッシュバックのように、あの夜の感触が蘇る。
ひよりはわざと視線を逸らし、彼の存在を意識から外そうとしていた。
──そんなある日の夕暮れ。
寮へ戻ろうとしたとき、背後から鋭い声が飛んだ。
「ちょっと、あんた!……話があるんだけど。いいかしら?」
声音には明らかな怒気が混じっていた。
ひよりが振り返ると、その視線はまっすぐ自分に向けられている。
「……は、はい。私ですか……?」
「そうよ。他に誰がいるっていうの?」
冷たく突き放すような口調。
立っていたのは、先輩封霊師の葉山りつかだった。
凛とした美貌に鋭い眼差し。普段は静かながら、一度怒らせれば怖い──そう噂される人物。
その背後には、彼女の取り巻きらしいもう一人の女の姿があった。
「ここじゃ人目があるわ。……向こうで」
ぷいっと不機嫌そうに顔を背け、先に歩き出すみつき。
背中から伝わる張りつめた気配に、ひよりの胸がざわつく。
(……なんで、私を……?)
黙ったまま、ひよりは従うようにその後を歩いた。
冷たい風が二人の間をすり抜け、足音だけが硬い床に響いていた。
寮から少し離れ、人通りの絶えた暗がりへと連れ込まれる。
風が冷たく吹き抜ける中、りつかは振り返り、鋭い眼差しでひよりを射抜いた。
「……なんで、あんたが呼ばれたかわかる?」
低く抑えられた声には、怒気が混じっていた。
「いえ……なにか、気に障ることをしてしまったでしょうか?」
ひよりには検討がつかず、悪びれもせず素直に返した。
だが、その無垢な態度こそが、りつかの逆鱗に触れる。
「……あんた、れんくんと……何かあったんじゃないでしょうね?」
「れんくん」という呼び方で、りつかの怒りの矛先がどこにあるのかを悟る。
ひよりが慌てて言葉を返そうとするが、遮るようにりつかは畳み掛けた。
「一緒に部屋に入っていくのを見たって聞いたんだよ。どうしてあんたなんかが、れんくんといい仲になってるわけ?」
(……やっぱり……あの日、背後に感じた視線……)
思い出した途端、背筋が冷たくなる。
必死に弁解しようと声を上げる。
「ち、ちがいます!あれは……」
「……あれは?」
りつかが一歩、ぐっと踏み込む。
挑発するような鋭い視線に、言葉が喉に詰まる。

その時、彼女の目がちらりと動き、もう一人の女へ合図を送った。
気づけばもう一人の女が後ろに回り込み、ひよりの両腕をがっちりと掴み上げる。
逃げようと身を捩っても、後ろからの力に阻まれ、一歩も動けない。
「……っ!」
「……もしかして今、逃げようとした?」
冷ややかな声に、ひよりは肩をすくませる。
「ふうん……逃げようとしたってことは、なにか後ろめたいことがあるんだね。へぇ──」
次の瞬間、りつかの手が胸に伸び、容赦なく掴み上げる。
怒気を含んだ強い指先が柔らかな膨らみを握りつぶすように揉み、ひよりの唇から小さく息が漏れた。
「……っ」
言葉を失い、視線を逸らすひより。
その頬には赤みが差し、動揺を隠しきれない。
「……あんた、まさか寮の部屋で淫らなことをしてたんじゃないでしょうね?」
鋭い問い。
図星を突かれた瞬間、あの日の光景が脳裏に蘇る。
望んだわけではない。けれど、事実として行為は起きてしまった。
その記憶が焼きつき、思わず頬が朱に染まる。
(……だめ、これを言ったら………)
「……そ、そんなこと、ないです!」
小さな間を置き、必死に否定する。
「嘘をついてるんじゃないの?」
りつかはさらに身を寄せ、挑発するように唇を歪めた。
「今、正直に言ったら見逃してあげてもいいんだけどね……」
ひよりは固唾を呑む。
(……どこまで知ってるの……?)
りつかの口ぶりは、まるで真実を握っているかのようだ。
あの日──声を必死に抑えきれずに漏らしてしまったことを思い出す。
寮の防音は決して完璧ではない。もしかしたら……誰かに聞かれていたのかもしれない。
りつかの掌は大きな膨らみをしっかりと包み込み、怒りを込めるように力強く揉みしだく。
その圧迫に合わせて、ひよりの鼓動は一層早まり、胸の奥までざわめきが響いていった。
「……だから、何もなかったって言ってるじゃないですか! それより、離してください!」
追い詰められたひよりは、声を強めて返す。
その瞬間──
パシン、と乾いた音が夜気に響いた。
りつかの手がひよりの頬を打ったのだ。
「っ……!」
あまりに突然のことに、ひよりは目を見開き、驚愕と怒りでりつかを睨みつける。
しかし、その視線を受け止めるりつかの顔は、怒気を帯びて一層険しくなっていた。
「しらばっくれんじゃないわよ!」
吐き捨てるような言葉のあと、わずかな間を置いて──りつかは妖しく笑んだ。
「……いいわ。アンタにはまず、先輩への敬いが足りないみたいね。なら、あたしが直々に“しつけ”てあげる」
掴んでいた手を放すと、そのまま両手の指先がひよりの胸元へ。
シャツのボタンをひとつ、またひとつと外していく。
「いやっ…何しようとしてるんですか!…」
震える声で抗議するが、りつかの手は止まらない。
すべてのボタンを外すと、次にブラジャーのホックに指をかけ、ぱちんと外した。
支えを失った胸がふるりと揺れ、ブラジャーで隠されていた形が、少しずつあらわになっていく。
「何をって……決まってるじゃない」
開かれたシャツが肩からずり落ち、ブラジャーが押し上げられる。
やがて──遮るもののなくなった豊かな胸が、空気にさらされた。
やわらかく張りを帯びた膨らみ。
その頂にある淡いピンクの先端は、思わず吸い寄せられるような色をしており、まるでりつかを挑発しているかのようだった。
「ふふ……知ってるわよ。アンタ、感じれば感じるほど強くなるっていう特異体質なんでしょ?」
耳元で囁かれる声。
同時に、りつかの指先が先端へ伸び、くすぐるように転がす。
こりこりとした感触を確かめるように撫でまわされるたび、ひよりの身体が小さく震えた。
「んっ……」
思わず声を漏らしたひよりの反応に、りつかの唇が冷たく歪んだ。
楽しむように、今度はホログラムの煌めきを帯びたネイルの先端で、敏感な突起をつん、と突く。
「……ぁっ、んっ……!」
指の腹とはまるで違う、硬質で冷たい刺激。
先端に触れるたび、小刻みに身体が跳ね、胸全体がかすかに揺れる。
「ふふ……こんな単純なことで、もうそんな顔しちゃって」
爪先を巧みに滑らせ、先端のまわりを円を描くようになぞる。
触れているのか、いないのか──絶妙な力加減がじりじりと焦らす。
円は次第に小さくなり、中心へと近づく。
(……くる、……)
胸の奥で期待に似た高鳴りが芽生えたその瞬間、爪先が先端をぴんっと弾いた。
「あんっ……!」
声を堪える間もなく、甘い吐息がもれた。
それを聞いたりつかは、すかさず言葉で追い詰める。
「こんなので感じちゃうなんて……アンタのほうから誘ってるんじゃないの? その淫らな身体で」
両手が容赦なく胸を掴みしめる。
大きすぎて手のひらには収まりきらず、指の隙間から柔らかさが押し返し、必死に形を保とうと揺れる。
「……そんな、私は……そんなことっ……! それに…淫らなのは、そっちじゃないですか!」
羞恥と怒りに突き動かされ、ひよりは思わず強く言い返した。
だが、その声すら震えているのが自分でもわかる。
「へえ……状況がまるで見えてないみたい」
りつかの目が、怒気を宿したまま細められる。
けれど口調は妙に穏やかで──かえってその静けさが恐ろしい。
「アンタみたいに言葉が通じないなら……身体に教え込ませないとねえ」
耳元で囁かれた瞬間、ひよりの心臓がどくんと跳ねた。
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