第31話 治療に抗えぬ躰(後編)

公開日: 2025/09/16

医療棟の診察室。

呼び出されたひよりは、女医・篠宮(しのみや)りえの前に座っていた。

丸椅子に腰を掛け、豊かな胸をさらけ出したまま両腕を上へと掲げている。

本人の意思でいつでも下ろすことはできる。

 

けれど──検診を怠ったこと、忠告を無視して無理をしたこと、そのせいで前回の治療が無駄になってしまったこと……。

その申し訳なさが胸に重くのしかかり、ただ篠宮の言葉に従うしかなかった。

篠宮はデスクのキャビネットを開き、ためらいなく器具を取り出す。

前回と同じ引き出し、同じ動作。

ひよりの胸は不安と羞恥で自然と高鳴っていた。

くるりと振り返った篠宮の手には、透明のジェルが広がっている。

照明を受けてとろりと光り、粘りを帯びて揺れていた。

 

「──はい、両手を上にあげて。降ろさないようにね」

冷静で隙のない声。

ひよりは躊躇しながらも、ゆっくりと両手を持ち上げた。

その瞬間、冷たい感触が膨らみを襲う。

「きゃっ……」

思わず肩が震える。

篠宮は淡々とした声で応じた。

「最初はひんやりするけれど、すぐ馴染むわ。我慢して」

両の掌が豊かな膨らみをなぞり、粘りのある液体を広げていく。

指の動きにあわせて胸が艶やかに光沢を帯び、呼吸のたびに形を変えながらきらめいた。

固くなった先端の上を、人差し指、中指、薬指、小指──指が順に滑っていき、また逆へと戻る。

一往復するたび、敏感な部分はぞくりと震え、息が漏れる。

「……あっ……ぁん……」

小さな声も、篠宮には確かに届いていた。

冷静な眼差しが、それすらも診察の一部として記録するかのようで、ひよりはますます頬を赤らめる。

「──よし、このくらいでいいでしょう」

ようやく手が離れ、ひよりは心の奥でほっと息をついた。

 

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(……おわった……)

安堵の思いが胸に広がる。

しかし──その期待はすぐに裏切られた。

篠宮の手には、透明の吸盤のような器具が二つ。

まるで球体を半分に割ったようなカップで、その内側には無数の柔らかなヒダが並んでいる。

見ただけで、それが何を目的として作られたものか、ひよりには察せられた。

「安心して。今回も痛いものではないわ」

篠宮の声は穏やかで、しかし抗いを許さない確かさを含んでいた。

豊かな胸にぴたりと密着させ、空気を逃がさぬように押し当てられる。

「っ……」

内側のヒダが柔らかく沈み、乳首を包み込むように押す。

予想していた感触が現実になり、ひよりは身を強張らせた。

「……よし、これでいいわね」

篠宮は静かに確認すると、ひよりの背後へ回り込む。

手にしているのは、カップから伸びるコードの先にあるスイッチ。

それが押された瞬間、何が起こるのか──ひよりの胸は羞恥と期待に小さく震えた。

 

「あ、あのっ…これは──」

問いかけは最後まで言葉にならなかった。

篠宮がスイッチを入れた瞬間、モーター音が鳴り響き、胸を覆うカップの内部でヒダが回転を始める。

「……あぁあっ! んあぁっ……!」

予想をはるかに超える刺激が胸の先端を襲い、ひよりの身体はびくんと反り返り、小刻みに震えた。

両腕を思わず下ろそうとした瞬間、背後から篠宮の手がそれを掴む。

「だめよ。我慢しないと」

耳元に落ちる声は冷静で、それがかえって羞恥と昂ぶりを強めた。

ひよりは抵抗できないまま、両腕を上げさせられた姿勢で固定される。

「やっ……あっ、んぁんっ……!」

押さえつけられた身体の奥底から、熱が疼き出す。

 

篠宮は淡々と告げた。

「しばらく来なかった分……溜まってるものを吐き出さないといけないわね」

その言葉に、ひよりは胸を刺すような罪悪感を覚えた。

任務を優先し、忠告を無視して無理を重ねた結果──自分はこうして再び篠宮の手を借りねばならない。

しかし、器具はそんな心情など意に介さず、胸の先端を無慈悲に責め立てる。

無数のヒダが回転とともに押し上げ、沿い、擦り、吸い付く。

固く尖ってしまった部分は、触れられるたび痺れるような衝撃が走り、呼吸が乱れた。

(だめ……こんなの、耐えられない……!)

淫霊の粘液による感度上昇、媚薬の後遺症、そしてもとより備わった特異体質。

三重に重なった敏感さが、ひよりをこれまで以上に追い込んでいた。

「っ、あああっ!……あっ、んああぁん!」

診察室には、低く唸るモーター音と、ひよりの押し殺した声が重なり響き渡る。

 

「……いい感じね。──じゃあ、仕上げに強くしましょう」

篠宮の指がスイッチを再び操作すると、音はさらに大きく唸りを上げ、ヒダの回転は一段と速まった。

激しく擦られるたびに、胸の奥へまで響く快感が波となって押し寄せ、ひよりの理性を呑み込んでいった。

回転数が増すだけではなく、さらに微弱な振動が加わり──それはこれまでとはまるで別の感覚となってひよりの胸を苛んだ。

「ぁあっ……だ、め……っ」

儚げな声が零れた瞬間、全身が大きく反り返り、その余波のようにびくびくと小刻みに痙攣する。

 

だが、無情にも回転は止まらない。

篠宮の腕が背後からしっかりと握られ、ひよりの両腕は再び上へと引き上げられ、頭上で固定される。

「んあっ…あのっ…いったばっか…り…」

達した直後にも容赦なく追いすがる刺激に、思考は乱れ、整理が追いつかない。

それでも熱は確実に蓄積され、奥底からせり上がってくる。

「ああぁあっ!…」

耐えきれず弾けるように、身体が大きく震え、椅子の上でがくがくと揺れる。

 

ようやく篠宮がスイッチを切ると、モーター音が次第に静まり、カップの回転もゆっくりと弱まっていく。

だが、そのわずかな余韻の刺激にすら、ひよりの身体は敏感に反応してしまう。

「はぁ……はぁ……っ」

荒い呼吸を繰り返しながら、解放された両腕が力なく落ちていく。

篠宮は背後からその様子を見つめ、ようやくひよりを拘束から解き放った。

 

「おつかれさま。一旦こんな感じでどうかしら……?」

篠宮の声に促され、ひよりは深く息を吐きながら、震える拳に力を込めてみる。

(……本当だ……前回と同じ……身体の奥から、力が湧いてくる……)

「ふふ、やっぱり効果はあったみたいね」

満足げに微笑んだ篠宮は、ひよりの両胸に装着されていたカップを丁寧に取り外した。

カップが離れる瞬間、内側に残ったジェルが艶やかに糸を引き、ひよりの敏感な先端をいやらしく濡らした。

「っ……」

わずかな吐息が漏れる。

 

「……また少し良くなったからって、無理しちゃだめだからね? いい?」

そう言いながら篠宮は、いたずらめいた笑みを浮かべ、指先をひよりの胸へ。

柔らかな膨らみに触れ、固くなった乳頭を軽くつまんだ。

「んっ……あ、はい……」

不意の刺激に小さな声をもらすが、それでも素直に頷く。

 

返事を確認した篠宮は満足げに微笑み、タオルを差し出した。

「じゃあ、これで拭いて、着替えていいわよ」

ひよりが胸元に残るジェルを拭き取り、ブラジャーを着け直して、シャツに腕を通し始めたそのとき──篠宮がふと思い出したように声をかけてきた。

 

 

「あ、そうだ。そういえば今──研究室の方で、淫霊の粘液による感度を抑制できる治療薬を開発しているの」

「……えっ」

シャツのボタンを掛けながら聞いたひよりは、不意の言葉に心を揺さぶられた。

治療薬──それは、幾度となく粘液に翻弄され、身体が思うように動かなくなった彼女にとって、希望そのものだった。

「そう。ただ……まだ分からないことがあってね」

篠宮の声が少し陰る。

「……分からないこと…ですか?」

「ええ。肝心のサンプルが足りないの。粘液に含まれる成分を解明しないことには、先に進めそうにないのよ」

篠宮は真剣な眼差しをひよりに向け、言葉を続けた。

「そこでお願いがあるの。あなたに、粘液のもととなる体液のサンプルを採取してきてもらえないかしら?」

(……体液を、採取……?)

脳裏に蘇る。肌を濡らし、下着を濡らし、意識さえも蕩かせていったあの粘り気。

ひよりはごくりと唾を飲み込み、わずかに身体をすくめた。

だが──篠宮の治療は確かだった。

そして薬の完成は、自分にとっても、ひいては任務の成功率を上げる切り札になるはず。

「……わかりました」

短くもはっきりと答えると、篠宮の顔に再び明るさが戻る。

「本当に?ありがとう。じゃあ、採取できたら私のところに直接持ってきてね」

「……はい」

「くれぐれも、無理だけはしないように」

篠宮の柔らかい声に、ひよりはこくりと頷き、一礼して診察室をあとにした。

 

廊下を歩きながらも、両胸にはまださきほどの治療の熱が残り、奥深くには疼きが燻っていた。

それでも──確かに力が漲っている。

(治療薬が完成すれば……私はもっと成長できる。姉さんの行方にも、きっと近づけるはず……)

胸に残る余韻さえも、決意の火に変えながら──ひよりは前へと歩みを進めた。

 

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