第33話 採取との引き換え(後編)
公開日: 2025/10/19
淫霊がゆらりと近づいてくる。
その影から、また別の触手がずるずると這い出し、ひよりの足元へ忍び寄った。
(……こっちにも……!)
触手がふくらはぎに触れた瞬間、ひよりは思わず生唾を飲み込む。
ぬめる感触がするすると上へと這いあがり、健康的な艶を帯びた太ももに絡みつく。
その冷たさと熱っぽい体温が交錯し、脚はいやらしく強調される形で縛られていった。
ミニスカートの裾が押し上げられ、中へと忍び込む粘つく先端。
足の付け根をもぞもぞと這い回ったかと思うと、やがて下着へと辿り着き、つん、と小突く。
「あんっ……」
声が堪えきれず漏れた。
ぬめる触手はパンツ越しに前後へと滑り、上下から同時に与えられる刺激がひよりを責め立てる。
「やっ…あっん……だ、めっ……」
理性が必死に制止を叫んでいた。
だが、篠宮の治療で押さえ込んでいた感覚は、媚薬の残滓と共に再び目を覚まし、熱となって胸の奥からこみ上げる。
「んああっ……!」
びくん、と全身が大きく跳ね、身体が勝手に痙攣する。
次の瞬間、ぞわりと霊力を吸い取られていく感覚が走った。
(……しまった……!)
快楽に呑まれ、不意に絶頂へと導かれてしまったがゆえに、淫霊に霊力を吸収されてしまったのだ。
急いで腕に力を込める。しかし――さきほどまで触手を振りほどけそうだった余力は、すでに残っていなかった。
(ま、まずい……このままじゃ……任務も……)
採取のために耐え続けてきた。だが、度重なる刺激に力を奪われ、脱出の術はもうない。
それでも触手は容赦なく胸を揉みしだき、尻を這い、いやらしい感覚を与え続ける。
「んっ……ああっ……」
必死に冷静さを取り戻そうとするが、思考は霞み、脳は次第に快楽に塗りつぶされていった。
気づけば、淫霊はすぐ目の前にまで迫っていた。
下半身には、人間の男のそれに似て異形の、赤黒く反り立つものが覗いている。
「や……っ」
幾度か任務で目にしたことはある。それでも直視するだけで頬が熱くなり、羞恥に胸が締めつけられる。
脈打つたび、それは大きくなっては反り返り、また元に戻る――生き物のように、いやらしく自己主張を繰り返していた。
触手が下着の境目にねじり込むと、すっかり湿った部分をなぞるように舐め回す。
「あああっ……!」
ひよりの身体は大きく反り返り、その反動で小さく痙攣する。
再び、力が抜けていく……。
触手の動きが急激に加速した次の瞬間、淫霊の反り立ったそれが脈打ち、白濁とした粘液を勢いよく放出した。
「きゃっ……!」
ひよりは思わず目を閉じる。
粘液は全身に降りかかり、胸や太ももに生暖かくまとわりつく。
どろりとした質感は肌にとどまり、流れ落ちることなく艶やかに張り付いた。
狙い通り淫霊の体液を手に入れることはできる。
しかし、霊力を吸収されてしまったために力が上手く伝わらず、手首に絡む触手は依然として強く、わずかに位置を動かすことすら困難だった。
(……採取できるのに……振りほどけない……)
恐る恐る淫霊の顔を見上げると、そこには恍惚とした笑み。
口角をいやらしく吊り上げ、ひよりを見下ろしている。視線がぶつかった瞬間、思わず息を呑み、慌てて顔を背けた。
粘液の生臭い匂いが鼻腔を満たす。
(やだ……)
しかし触手はなおも蠢き、下着の奥でぐにぐにといやらしく動き続ける。
その動きに呼応するように、淫霊の反り立つものが再び震え、脈を打ち、先端から白濁が滴る。
途中まで任務自体は終わらせることができただけに、採取のために欲をかいた自身の判断に後悔の念が一瞬胸をよぎる。
だが次の瞬間には、全身を這い回る刺激がその思考をあっけなくかき消していた。
「ああっ……」
触手のうねりがさらに激しさを増す。
淫霊のそれも一瞬にして脈動を強め、次の刹那、熱く濁った液体が弾け飛んだ。
「っ……!」
飛沫は下半身にまとわりつき、艶めく太ももを白く汚していく。
腿と腿のあいだに粘り糸がいやらしく伸び、結ばれる。
吐息荒く、ひよりは肩で息をしながら震える視線を落とす。
放出を終えた淫霊のそれは、なおびくびくと脈打ちながら縮み、名残惜しげに滴を零していた。
淫霊と触手が少し落ち着いている間に、ひよりも息を整える。
外から射し込んでいた月明かりが、雲が薄れた隙間から差し込み、廃墟の工場内を一瞬だけ照らす。
その光を浴びた触手の動きがふと鈍った。
(…!)
ひよりは残された力を全身に込め、手首を締め上げる触手を振り払う。
解放された瞬間、渾身の拳を淫霊に向かって振り抜いた。
「封っ……!」
呻くような瘴気が辺りに立ち込め、淫霊の身体は塵となって霧散していく。
絡みついていた触手も同時に消え、ようやくひよりは解放された。
その直後、雲が再び月を覆い、工場は薄暗さを取り戻す。
「……はぁ、はぁ……」
ひよりはその場に崩れ落ち、しばらく肩で息をついた。
胸の奥ではまだ火照りが残り、汗と粘液で肌がいやらしく湿っている。
小瓶を取り出すと、太ももにまとわりついたどろりとした白濁を指で掬い、小瓶の中へと収めた。
谷間に沈んでいた粘液もすくい上げると、指と指の間にねっとりと糸を引き、生臭い匂いが鼻腔を刺す。
(…これでいいのよね…)

息を詰めながらも、ためらうことなく粘液を採取していく。
立ち上がると、スカートやシャツには湿りが残り、ところどころ染みが浮かんでいる。
布地越しに冷えた液体の感触が伝わるたびに、胸の奥で疼きが再び揺れ動いた。
小瓶に収めた半透明の液体を強く握りしめ、ひよりは乱れた衣服を整え、工場を後にする。
夜風に頬をなぶられながらも、その熱は冷めきらず、身体の奥底の疼きだけを抱えたまま、足早に帰路へと向かった。
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