第37話 内に仕込まれたもの(後編)
2026/01/05
淫霊が一歩ずつ距離を詰めるたび、濃密な瘴気が霧のように漂い、ひよりの肌をざわつかせる。
林に入ってきたところから漂っていた霧のようなものは、この淫霊によるもののようだ。
必死に両腕に力を込め、絡みついた蔦を振り払おうとする。
だが拘束はびくともしない。
よじった拍子に胸元が揺れ、豊かに実った果実が艶めかしく弾んだ。
その揺れに淫霊の視線が釘付けになる。
前に進み出ると、伸ばした両腕でひよりの胸をがっしりと掴み、揉みしだいた。
「んっ……!」
押し潰される柔肉。
シャツ越しとはいえ、形を変えて押し出される膨らみが淫らな弾力を放つ。
(だめ……これじゃ、また同じ羽目に……)
ヴーヴーヴーッ……!
器具は淫霊の刺激に呼応するかのように振動を強め、奥から絶え間ない痺れを送り込む。
「ああぁっ……だ、めっ……!」
脳裏に白い閃光が弾けた。
次の瞬間、全身がびくんと大きく反り返り、がくがくと震えながら力が抜けていく。
拘束に身を預けるしかない無力感。
それでも器具は休むことなく、中から震えを繰り返した。
下着はじっとりと濡れ、布地と肌の隙間から透明な滴が一筋伝い落ちる。

「はぁ……はぁっ……」
荒い息を吐くひより。
淫霊は胸を揉んでいた手を止めると、今度は胸元が開いたシャツの間に手を入れると、強引に豊かな胸を引きずり出した。
「っ……!」
その衝撃で胸元を押さえていたシャツのボタンが弾け飛ぶ。
ブラジャーも押し下げられ、年齢には不釣り合いなほど発達したふくらみが、無防備に晒された。
ほんのり火照った肌は血色を帯び、薄桃色の先端が艶めかしく尖っている。
淫霊はその丸みを鷲掴みにして、じゅうぶんに収まらない弾力を指の間にこね回す。
ときおり、指先で先端をつつき、硬さを確かめるように弄ぶ。
「あっ……ああっ……」
堪えきれず、恥ずかしげな声が喉の奥から零れ落ちる。
淫霊の掌には、蔦にまとわりついていたぬめる粘液が絡みつき、その液体がひよりの肌へ淫らに塗り広げられていく。
粘液が染み込むほどに、胸の感覚はさらに鋭敏になり、息をするだけでも先端が痺れるように疼いた。
(…これにも、感じやすくなる効果が……)
次第に息遣いが荒くなり、込み上げてくる快感を抑えようと思った瞬間ーー
不意に、すっかり固くなった先端をつままれた。
同時に、体内に仕込まれた器具が激しく唸りをあげる。
ヴヴーッヴヴーッ
「ああああ!っ…」
外からの刺激と中からの振動が重なり、ひよりの全身に雷のような衝撃が走った。
身体はがくがくと震え、快感に抗えぬまま、力が抜けていく。
ぐったりと項垂れるひよりを見下ろしながら、淫霊はねっとりと口角を釣り上げる。
ゆらゆらと蠢くその姿が、次の一手を狙っているのは明らかだった。
(…なんとかしないと…こんなところで負けるわけにはいかない…)
胸の奥で警鐘が鳴る一方、まだ身体の中では器具が律動を刻み、否応なく熱を煽り続けていた。
淫霊は蠢きを止めると、粘つく手をゆっくりと太ももへと伸ばしてきた。
(だ、だめ……そこは……っ!)
恐怖と羞恥が入り混じるそのとき――
林の奥から突風が吹き抜け、辺りを包んでいた霧を一気にさらっていった。
淫霊を覆っていた瘴気が剥ぎ取られた瞬間、ひよりの腕を縛っていた蔦が緩む。
ひよりはその瞬間を逃すまいと、息を詰め、拳に力を込める。
だが――
ヴヴッッ……!
体内に仕込まれた器具が突然震え、腰から膝にかけて力が抜ける。
「あっ……!」
体勢が崩れ、地面に膝が落ちそうになる。
淫霊は嗤うように身を引き、後ろへ逃れようとする。
しかし、ひよりは残された力を振り絞り、足を蹴り出した。
「……はあぁぁっ!!」
拳がうなりをあげて淫霊の胸部に叩き込まれる。
ぶつかった瞬間、淫霊の体は破裂するように霧散し、瘴気とともに四散して風に溶けていった。
林を覆っていた黒い霧も次第に晴れ、夜の静寂が戻ってくる。
「はぁ……はぁ……っ」
ひよりは両膝に手をつき、肩を揺らしながら荒い息を吐いた。
さきほどまで絡みついていた蔦の感覚がまだ四肢に残り、肌の奥にまとわりつくように消えない。
ヴヴッ……
一瞬、微弱な振動が体内を走る。
「んっ……!」
思わず身体がのけぞり、膝がふらついた。
(……なんなの、これ……っ)
恐る恐る片手をスカートの中へ。
湿った下着越しに指先が紐に触れ、その奥に硬質な器具が収まっているのを確かめる。
それが記録用の器具だとわかっていても、
――戦いの最中に、器具の振動で何度も身体を支配されかけた。
危険に晒されたのは確か。
だが、それ以上に……
体の奥から押し寄せた熱に、抗えず震えてしまった自分。
その事実に気づくたび、胸の奥でぞくりと甘い羞恥が走る。
夜風が吹き抜け、濡れた布地にあたると、ひんやりとした感触が火照った肌を撫でていく。
それが余計に、敏感になった身体を思い知らされる。
押し下げられていたブラジャーを慌ただしく引き上げ、外れたボタンの隙間から覗く谷間を、片手でシャツを寄せるように覆った。
整えたはずの胸元からは、まだ鼓動が速く打ちつづけているのが伝わる。
ようやく息を整え、膝から手を離して体勢を起こす。
一歩、また一歩と林を抜ける道を辿る。
もう器具は沈黙しているはずなのに――
ふとした拍子に、あの振動が蘇るような錯覚が身体を襲い、下腹部がきゅっと疼く。
自分の身体が、器具を覚えてしまっている。
その恐れと戸惑いを胸に抱えながら、ひよりは夜風に髪を揺らし、篠宮が待つ医療棟へと歩を進めていった。
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