第4話 揺れる連携
今日はひよりにとって初めての同行任務。
胸の奥がざわつくような緊張と、シャツの下でほんのりと汗ばむ肌。
「よっ、新人ちゃん♡」
不意に背中から気配が迫り、温もりごと抱きしめられた。
ふわりと香る花のような匂いとともに、胸元に回された腕が、豊かな膨らみを下から押し上げる。
「ひゃっ……!? え、えっ?」
思わず肩をすくめるひより。戸惑いに目を泳がせる間もなく、唇に悪戯っぽい笑みを浮かべた少女が回り込む。
「ごめんごめん、ちょっとびっくりさせたかっただけ~。
いやぁ、噂の“高感度新人”って、君のことだったんだね~」
集合場所の封霊会支部前に現れたのは、一つ上の先輩、霧島りさだった。
「私は霧島りさ。遠慮なく、"りさ"って呼んでね♪」
「……あ、神崎ひよりです。よろしくお願いします」
少し戸惑いながらも頭を下げると、りさはくすりと笑い、ふと目線を落とした。
「いやあ……それにしても淫霊が惹かれるのもなんだか分かる気がするなあ……」
その手が、ひよりの腰にそっと触れ、プリーツスカートのラインをなぞるように滑り込む。
生地越しに伝わる指先のぬくもりが、体温よりも高く感じられた。
「っ……ちょ、ちょっと、からかわないでください……」
ひよりの頬が朱に染まり、視線が泳ぐ。
「ふふ、緊張してるみたいだからほぐそうと思ってね。じゃ、行こっか、今日の現場!」
そう言ってひよりの肩をポンと叩いた。
任務地は、廃墟化した複合施設の中層階。
現地調査によると、淫霊は空間をすばやく移動し、粘着性のある触手で獲物を捕えるタイプ。
りさは階層全体に結界符を張りながら、指示を飛ばす。
「ひよりちゃんは前に出てくれる?できるだけ霊の動きをおさえてくれると助かるんだけど」
「はい、わかりました」
ひよりは息を整え、暗がりに足を踏み入れる。
湿った空気が肌にまとわりつき、衣服の上からも粘着質な瘴気を感じた。
(また……来る。あの、這うような気配)
「っ……っ、来たっ!」
廃ビルの天井から伸びる、ねっとりとした触手が彼女を狙って飛来する。
ひよりはそれを察知すると、あえて一歩前へ──逃げずに囮として誘うように身を翻した。
スカートが舞い上がり、大胆にしなやかな太ももが闇に浮かび上がる。
「速い……!」
りさが射出した符が空を裂くも、淫霊も素早く体をねじり、回避する。
(集中して……今は、私が引きつけなきゃ)
さらに床から這い出すように現れた触手が、こんどは真っ直ぐに彼女の腕へと巻きついた。
粘液の冷たい感触が、シャツの上から肌へと染み込んでくる。
「くっ……!」
思わず肩が跳ね、喉奥から震える息が漏れる。
だが、彼女は逃げない。同時に、淫霊の気配を引きつけ、動きを止める。
(この距離……今なら、りささんの攻撃が届くはず)
淫霊の触手はなおも蠢き、肩を這いながら、今後はシャツの開いた胸元へと侵入する。
谷間に沿って、ぬめりを帯びた異物がぬるりと滑り込んできた。
(……んっ……りささんまだなの…!?)
「ひよりちゃん、そのままで!動かないで!」
その声は、甘くも鋭い命令だった。
空中に展開された符札が淡く光り、一斉に放たれた。
「――展開っ!」
淫霊の触手が軋む音とともに緩み、ひよりの身体から滑り落ちた。
ひよりはすぐさま膝をつき、接近戦に移る。
「封っ――っ!」
拳が淫霊の核を正確に捉え、霊体は砕けるように崩れた。
「はぁ……終わりました、ね……」
膝に手をあて、胸を上下させながら息を整えるひより。
その顔には汗が光り、ほんのり火照った肌が浮かび上がる。
その横顔に、りさが近づき、にこりと微笑んだ。
「お疲れさま! いやー、すごい判断力だったねぇ。ああいうの、なかなか真似できないよ」
「……ありがとうございます」
「……っていうかさ、あまりにも色っぽいから、ちょっとだけ見入ちゃった…♡」
「えっ?」
「だってさ、こう、悶えながら耐えてる感じ?あの集中した表情……なんかこう、燃えるっていうか。ふふっ、変な意味じゃないよ?」
「……ぜったい変な意味ですよね…!」
頬を染めたひよりに、りさは冗談っぽく笑って背中をポンと叩いた。
「また一緒になったらよろしくね、ひよりちゃん♪」
その声は軽やかで、どこか頼もしかった。
ひよりの中に、ほんの少し、仲間という感覚が芽生え始めていた。