第8話 悪戯な瞳

公開日: 2025/07/09

封霊師となって一年。神崎ひよりは、数多くの任務を経て、同期の中でも頭ひとつ抜けた存在になっていた。

そんな彼女に、ついに後輩がつくことになった。

 

「先輩〜っ! 今日からよろしくお願いしますっ!」

元気な声とともに、軽い勢いで前から飛びついてきたのは、天羽(あもう)みく。

みくは無邪気で人懐っこく、距離がとにかく近い。

ひよりは反射的に背筋を伸ばした。

「えっ、ちょ、ちょっと近い…!」

「えへへ、すみませんっ♡ でもわたし、普段からこういう距離感なんですよね」

小柄な体でぴったりと寄って、ひよりの胸が彼女に当たり押し返されるのを感じた。

悪びれもせず笑うみくに、ひよりは思わず一歩引く。

 

「さっそく先輩の噂、聞きましたよ! “トクベツ”な体質のエースって…先輩のことなんですよね?」

まっすぐな瞳が、ひよりの身体をすっと撫でるように見つめてくる。

目線の動きひとつが妙にくすぐったく、ひよりは思わず腕をぎゅっと胸元に寄せ、手で隠した。

「ちょ、ちょっと…それに噂って……」

「え〜、先輩のことじゃないんですかぁ? 先輩って、こう見えて意外と照れ屋さんなんですね…♡」

みくの声は軽やかだったが、その響きの奥に、わずかな含みがあった。

 

「わたし、こういう羽根を使ってね、空気とか霊気の流れとかを読むのが得意なんですっ。ほら、こうやって——」

みくは唇の端をわずかに上げ、手にした細長い羽根をひよりの脚元へと滑らせた。

どこからともなく生まれた風が、膝上20センチほどのミニスカートをふわりと持ち上げる。
露わになった白い太ももに、羽根先がやわらかく触れた。

細やかな繊維が一本ずつ、肌をなぞり、くすぐるような感触がゆっくりと広がっていく。
その軽やかな刺激が、ひよりの内側にじわりと熱を宿していった。

(なに、この感覚……)

ひよりは、不意を突かれたような刺激に、どう反応すべきか分からず戸惑っていた。

そんな心の揺れなど意にも介さず、みくは羽根先をさわさわと揺らしながら、ゆるやかに上方へと滑らせていく。
その動きは、まるで何かを探り当てようとするかのように、ひよりの反応を確かめているようだった。

初めて味わう感触に、ひよりの身体はこらえきれず、ぴくりと小さく跳ねた。

「…んっ…」

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スカートの奥で蠢く羽根先が、ゆっくりと軌道を描きながら、ついに下着へと迫っていく。

「っ……ちょ、ちょっと、それ以上は……だめ!」

耐えきれず、ひよりは反射的にみくの手を押さえ込んだ。
その動きには、戸惑いと警戒、そしてわずかな熱が入り混じっていた。

「えー、わたしの特技、ちゃんと見てほしかったのに〜。

…でも、少しだけ分かりましたよ。先輩って、なんだか身体から“重たい気”が漂ってる気がします」

「……“気”? それって、なにか…見えてるの?」

みくはイタズラっぽく、にこりと笑った。

「ふふふ、知りたいですか?♡ あと、なんか…“すっごく濃くてえっち”な気も混ざってました」

「……なっ……そんな、あるわけ──!」

反射的に目をそらしたひよりの頬が、ふわっと赤く染まっていく。

みくの言葉が冗談めいていることはわかっていた。けれど、その無邪気な笑顔の裏にある勘の鋭さに、どうしても気圧されてしまう。

(なんだろう、この子……人懐っこくて無邪気そうに見えて、するどい)

自分でも気づかない何かを、彼女はもう見抜いているようだった。

「……とにかく、これからよろしくね。…みく」

不慣れな名前呼びに、ひよりは思わず目を伏せた。

それを察したのか、みくはぱっと笑顔を浮かべる。

「はいっ!これから、いーっぱい先輩のこと教えて下さいね♡」

そう言って、勢いよくもう一度抱きついたかと思えば、すぐにふわりと離れ、まるで風をまとったような足取りで離れていった。

 

その背中を見送りながら、ひよりは静かに胸に手を当てた。

まだ名も知らぬ“気”が、確かに揺れていた──

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